ブラームス/弦楽四重奏曲全集
(Johannes Brahms : The Complete String Quartets)

19世紀ロマン派屈指の室内楽作家ブラームスは、初期のピアノ三重奏曲第1番から晩期のクラリネット・ソナタ第2番まで、40年以上にわたってこのジャンルの作品を書き続けました。
しかし、そのブラームスにしても、弦楽四重奏曲は生涯に3曲しか残しておりません。
その理由としては、やはりベートーヴェンの16曲の弦楽四重奏曲(+大フーガ)の存在が大きかったものと思われます。
交響曲と並んで弦楽四重奏曲は、ブラームスにとってベートーヴェンを意識せざるを得ないジャンルでございました。実際、ごく若い時期からブラームスは弦楽四重奏曲に取り組んでおり、最初の弦楽四重奏曲を発表するまでに、20曲以上の試作品を破棄したと伝えられます。

1873年に発表された弦楽四重奏曲は、完成までに8年以上が費やされたと考えられております。40歳にして満を持して世に問うたブラームスの弦楽四重奏曲、しかも同じ作品番号をもった2曲セット。ちなみに、ブラームスが室内楽作品にセットでまとめたものは、これ以外には作品120の2つのクラリネット・ソナタがあるのみでございます。
作品51の2曲は、いずれも短調ながら対照的な性格をもちます。
第1番は全曲を統一する基本的な楽想が存在し、4つの楽章がきわめて緊密に構成されております。旋律的な要素を排し、高い緊張を維持した音楽で、若干のゆとりのなさも感じられます。
一方、第2番はより自由な息遣いが見られ、旋律的な魅力も少なくありません。ともに短調作品ながら、第1番の「剛」に対して、第2番は「柔」という印象でございます。

1875年に書かれた第3番は、上記の2曲とは異なり、明るく開放的な音楽で、ブラームスの室内楽曲の中でもとりわけ楽天的な作品ではないかと存じます。第1楽章のポリリズム的手法、第2楽章の豊かな歌謡性、変奏曲形式の終楽章に現れる第1楽章の要素など、意欲的な発想に満ちた魅力的な作品です。

この第3番を最後に、ブラームスは弦楽四重奏曲というジャンルから完全に手を引いてしまいました。実際のところ、24曲に及ぶブラームスの室内楽作品の中で、3つの弦楽四重奏曲はかなり地味な存在かもしれません。しかしながら、この3曲が19世紀ロマン派の弦楽四重奏曲として重要な作品に含まれることは間違いありません。

ここで使用しましたスコアは、ブラームス自身の手に成るピアノ連弾用の編曲でございます。
ピアノで演奏された3つの弦楽四重奏曲、もしお楽しみいただければ幸甚でございます。


弦楽四重奏曲第1番ハ短調 作品51-1(String Quartet No.1 in C minor, Op.51-1) 
 第1楽章:アレグロ(I. Allegro.) 
 第2楽章:ポーコ・アダージョ(II. Poco adagio.) 
 第3楽章:アレグレット・モルト・コモード(III. Allegretto molto comodo.) 
 第4楽章:アレグロ(IV. Allegro.) 
 ◆弦楽四重奏曲第1番ハ短調作品51-1・全曲連続再生 

弦楽四重奏曲第2番イ短調 作品51-2(String Quartet No.2 in A minor, Op.51-2) 
 第1楽章:アレグロ・ノン・トロッポ(I. Allegro non troppo.) 
 第2楽章:アンダンテ・モデラート(II. Andante moderato.) 
 第3楽章:テンポ・ディ・メヌエット、モデラート(III. Tempo di Menuetto, moderato.) 
 第4楽章:アレグロ・ノン・トロッポ・アッサイ(IV. Allegro non troppo assai.) 
 ◆弦楽四重奏曲第2番イ短調作品51-2・全曲連続再生 

弦楽四重奏曲第3番変ロ長調 作品67(String Quartet No.3 in B flat major, Op.67) 
 第1楽章:ヴィヴァーチェ(I. Vivace.) 
 第2楽章:アンダンテ(II. Andante.) 
 第3楽章:アジタート.アレグレット・ノン・トロッポ 
   (IV. Agitato. Allegretto non troppo.)
 第4楽章:ポーコ・アレグレット・コン・ヴァリアツィオーニ 
   (IV. Poco Allegretto con Variazioni.)
 ◆弦楽四重奏曲第3番変ロ長調作品67・全曲連続再生 

◇「あそびのピアノ連弾」に戻ります◇
◇編曲:J. ブラームス ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録音:jimma